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縁起の間

銀盤を売る

男:

(モノローグ)
おれはとうとういぬん堂になってしまった
ほかにどうするアテもなかったのだ
演劇、ミニコミ、銅板彫刻と手を出しみたけれど、ことごとく目ろみがはずれてしまった
このいぬん堂だってまるで素人だ
サラリーマンの時にちょっと知識を仕入れただけなのだ
だが、おれはこれでまだまだ諦めちゃいない
夢だってあるさ
夢が……

20年ほど前だったか……ザ・スターリンというパンクバンドがあった
遠藤ミチロウという人がやっていたが嫌になって解散してしまった  
最初はライヴに来る人は一度に数えるほどだった  
解散時には2000人も動員したとか…

男: な、ザ・スターリンのコピー・バンドをやるのさ、いい話しだろう
で、考えたんだが、ライヴにはあちこちからいろんな客が来る 
だから、おれもCDとかDVDとか並べてね、ついでにミニコミも置いて多角経営してみようと思う
女: ふん あんたのCDがいつヒットするのよ
今まで一枚だってヒットしたことあるの
男: まあ、きけ
それに近頃は以前と比べコピーバンドでもけっこう人が来るようになった
年老いたパンクス
ひきこもりの人
業界関係者 
レコ屋の店員
どうにか商売になると思うよ
女: だけど、コピーバンドのCDを作るのにいくらかかるのさ
男: まあなんだかんだで50万はかかるな
なに、作るのは自分でやるつもりさ
女: ケッ
男: 真面目に聞け
女: アホらしくて聞いてられんわ、どこに50万の金があるの
私にハーゲンダッツ1個買ってくれたことないじゃない
やれCDは手で詰めれば経費が浮くだの、プレスは台湾でやれば安くつくだの
そんなケチなあんたに何ができんの
銅板彫刻だって芸術などとおだてられて調子に乗っても1枚も売れなかったじゃない
ミニコミだって下品なタイトルつけて評判落としたり
お芝居ときたらもう沢山ってくらいノルマの券つかまされたりしてさ
そのあげくがいぬん堂
そして今度はコピーバンド。あんたのやることだんだん落ちぶれてくじゃない
いっそ野良犬あたりが似合いなんじゃない……
 
とあるオークション会場にて
男: 御願いします
座長: 次、コケシドール「コケシズム」
男: (ドキドキ)
座長: 千円!
男: 千円!?
座長: 「GO GO コケシドール」二千円!
男: それは私は二千五百円に!
助手: あんた、底値は座長にまかせなさい
新人のクセにケチつけちゃいけません
座長: じゃあ次は二千八百円でいってみよう
「絶賛清算中!!」二千八百円ありませんか?
皆金持ってるくせにどうして買わないの?
じゃ二千円だ!
えい千円ではどうだ!(パパンと机を叩く)
客: 座長バナナの叩き売りじゃないのよ
値下げするセリなんてありませんよ
座長: あ!そうか
次も千円だ
たった千円だよ 
声出してよ
客: セキとして声なしか
客: まるで通夜のようだ
客: コピーバンドなんてあれだろ、自分でも出来そうだから魅力ねんだよな
座長: コケシドール終わった 次!
 
オークションは終わった…

女: あんたこのCDまた宅急便で送るの?
二箱で二千円もかかったのよ
席料と弁当代と合わせて一万七千円も消えたのよ
こんなもの捨てなさいよ!
男: おれが4年も無駄にしてやってきたものだ
かついで帰る…
女: 私もうコピーバンドなんていやだァ!(と言って荷物を放り出す)
こんなもん!こんなもん!(CDをばらまきはじめる)
あんたなんでこんな真似するのよ
私に苦労ばかりかけて 私もう耐えられないよう
私には判ってんのよ 演劇だってミニコミだって あんた本気でやんなかったじゃないの
わざとこんな真似しているだけじゃない
なんでなの?なんでこんな真似するのよ?
あんたにはいぬん堂しかないのよ
子供: エ〜ン エ〜ン
女: ねっ いぬん堂やってよ 注文がなくてもいいじゃない あんたのバカァ〜
子供: バカ〜
 
ゴ〜ン(無情の鐘が鳴り響く)

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